男性の更年期障害の一つともいえる勃起(ぼっき)障害(ED)。命にかかわるわけではない、と軽く考えている人が多いかもしれない。ところが最近では、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中など命取りになる病気を示唆する症状ととらえる考えが広がっている。
勃起の大まかな仕組みはこうだ。性的な刺激を受け、脳から神経を伝わって陰茎の動脈の中にNO(一酸化窒素)が放出される。このNOが血管を広げて、血液が流れ込み勃起が維持される。だが、NOの放出が阻害されていたり、血流が悪くなっていたりすると勃起しにくくなる。
◇
EDは「性交時に十分な勃起が得られない、または維持できないために満足な性交ができない状態」のこと。うつやストレス、疲労などが引き金になるケースや、外傷、降圧剤や向精神薬などを服用しているといった、原因が明確なケースがある。
知らない間に長期にわたってじわじわ進むEDもある。こうしたEDは、加齢のためばかりとは限らない。喫煙や高血圧、糖尿病などで動脈硬化が進んでいることも一因だ。大阪大の辻村晃講師(泌尿器科学)はこう指摘する。「EDの発症が、心筋梗塞や脳卒中などの発症を警告しているのです」
動脈の直径は陰茎が1〜2ミリ。心臓の冠動脈は3〜4ミリ、首では5〜6ミリほど。動脈硬化などの影響は、より細い血管ほど早く出るとされる。陰茎の血管が傷んでNOの放出がうまくいかないEDは、動脈硬化が進んでいる証拠というわけだ。
海外の研究では、心筋梗塞などを発症した患者300人を調べたところ、その3分の2がそれ以前にEDを自覚していたという。辻村さんは「EDを入り口に、心疾患の検査をしたり、生活習慣を改めたりすることは非常に重要になる」と話す。
◇
「しばしば勃起できない」という中程度以上のEDの人は、1998年の調査によると、国内では約1130万人と推測された。30代から60代の男性の約3割を占めた。
製薬会社ファイザーが09年3〜5月、インターネットで20歳以上の男性を対象にアンケートした。その結果、40代以上の約6割が「自分はEDかもしれないと思ったことがある」と回答している。
EDは誰にでも起こりうる。とはいえ、「実際に治療を受けているのは5%ほどではないか」と東邦大の永尾光一教授(泌尿器科学)はみる。恥ずかしくて受診をためらったり、年齢を理由にあきらめたりするケースが多いという。「治療で改善は可能です。将来の重病を防ぐ意味もある。迷わずに専門医に相談してほしい」と呼びかけている。(木村俊介)