母子感染を起こす感染症には、陰部ヘルペス、淋菌感染症、陰部クラミジア、小児AIDSおよびHIV感染、梅毒以外で母子感染を起こすものとしては、カンジダ(経産道感染)、サイトメガウイルス(経産道、経胎盤、経母乳感染)、B型肝炎(経産道)、トリコモナス(膣トリコモナス:経産道感染)、HTLV-1(ヒト白血病ウイルス:経産道、経母乳感染)、などがあります。
主な母子感染による性病・性感染症の特徴については、簡単にご紹介します。先天梅毒は、妊娠18週以降に経胎盤感染を起こし、発症します。先天梅毒はその発症時期により、胎児梅毒、遅延梅毒、乳児梅毒にわけられます。胎児梅毒は胎児期に発症し、胎児水腫により、流産、死産、生後早期の死亡の転帰をとります。遅延梅毒は、学童、思春期になって発症し、粘膜、骨、皮膚、内臓に病変が認められます。乳児梅毒は、生後1ヶ月頃、骨の変化、皮膚の発疹、鼻炎、肝脾腫が出現し、長管骨骨端の骨軟骨炎による痛みから四肢運動の低下(Parrot(パロー)の仮性麻痺)が認められます。
HIVの母子感染では、経産道感染、経胎盤感染、経母乳感染の全てが報告されています。米国では未治療のHIV感染妊婦において、約30%の母子感染が成立すると推定されています。感染した場合認められる疾患は、小児AIDSですが、わが国では報告例が少なく実態は不明な点が多くあります。
ヘルペスウイルスによる母子感染の経路としては産道感染がよく知られており、感染した新生児に新生児ヘルペスが認められます。産道感染の感染率は、妊婦が分娩末期にヘルペスウイルスに初感染した場合の方が、再発の場合より高くなります。母親に性器ヘルペスが存在した場合、初感染で1ヶ月以内、再発型で発病より1週間以内であれば帝王切開がすすめられ、それにより予防が可能ですが、母子感染の大部分は無症候性性器ヘルペスにより感染すると考えられます。
新生児ヘルペスは、中枢神経型、全身型、皮膚型に分類されます。中枢神経型は、予後は良好ですが後遺症を残すことが多くあります。全身型はヘルペスウイルスが全身に散布され、肺副、腎、肝臓などの臓器に発症するもので一般に予後は不良です。皮膚型では病変は表在性に限局するため、後遺症なく治癒します。
淋菌感染症の主な感染経路は経産道で新生児に淋菌性結膜炎が発症しますが、現在では予防的点眼処置が行われるようになり、その結果ほとんど発生は認められません。クラミジアは、性感染のみでなく経産道感染を中心とする母子感染の病原体として知られています。新生児の封入体結膜炎は、生後3-13日で発症し、眼瞼の腫脹、ときに偽膜の形成、膿漏眼が認められます。クラミジア肺炎児の大部分は生後6ヶ月未満の新生児、乳児で、通常3-16週で発症し咳や鼻汁などが認められ、多くの場合発熱はせず遷延性の経過をたどります。